着物モデル?(2001/09/20)
着物モデル?
日曜日の新聞に「アルバイト情報」の折込広告が入ってくる。毎週、私はそれをじっくり読むのだが、滅多に目にとまる募集はない。が、1ヶ月ほど前、目にとまった募集記事があった。
「着物モデル募集」だ。
モデルというとなんだかすごく聞こえるが、要はプロじゃない人で、着物を着て写真とかに載ってくれる人を募集しているらしい。しかも、モデルをすると1万円もらえるらしい。会社名も聞いたことがあるような。怪しい仕事ではなさそうだ。
実は私は着物が好きだ。着物売り場に行くといろいろ試着させてもらう。お値段が高いので、買えるのはせいぜい浴衣止まりだが。そんなわけで、着物が着れてしかもお金がもらえる、こりゃなんていいバイトなんだ、と思い早速応募することにした。
応募ははがきで行うが、折り返し二次選考のお知らせが届くことになっていた。それが来ない場合は、一次選考でボツになったということになる。ハガキを出して随分経ち、すっかり落ちたのね、と思っていた頃、お知らせがきた。
二次選考は、面接があるらしい。まぁ普通のバイトもそうだから、やはり気軽に思っていた。
履歴書と写真も要るらしい。1年前の今より少し痩せてる写真を採用した。私ってうそつきかも?
そして二次選考の日。会場には「オーディション」と書いてある。なんだかおおげさな感じだ。
数人の女性が既に来ていて、母親同伴の若いお嬢さんもいる。実は今回の募集は、年齢制限も体重制限もなし。目的は「着物の普及」だそうで、誰でも気軽に着ることの出来る着物、を目指している様子。微妙に怪しい感じがする。
本当に着物を普及させたいのであれば、もっと洗濯が簡単とか、着るのが簡単とか、何より買いやすい値段にするのが先のような気もするが。着物は一般的に高い。高いから、それなりの時と場所でしか着ようと思わない。もっと気軽に買えるお値段なら、普段から着てもいいかな、とも思う。そしてクリーニングがもっと簡単で安ければ、なおよいのに。そんなふうに思っていた。
面接の前に随分待合室で待たされた。受付に履歴書を提出したのは、結構早かったと思うのだが、面接に呼ばれたのは最後のほう。持っていた文庫本をすっかり読み終わってしまった。
面接は1対1で行われた。感じのよいお兄さんが相手だった。着物が好きか、どういったものを着てみたいか、おうちに着物はあるかなどなどの質問。待たされ過ぎたせいか、私のほうは緊張感がなくなっていて(というかテンションがさがっていて)、なんだか申し訳ない感じだった。
その時聞いた話によると、今回モデルに選ばれると、撮影に着用した着物をもらえるらしい。なんてこった!すごいじゃないの。だいたい50万円相当の着物をもらえるそうで、撮影会は2月くらいに東京であるらしい。
そんな美味しい話ってあるのかな、不思議だなー、と思いつつも、選ばれるといいなー、着物ほしいなー、と思い試着会場へ。
私より先に面接を終え、既に試着している人が3名ほど。振袖の若い方が2人と、私より年配の方で留袖を着ている方が一人。
私は訪問着か付け下げがよかったのだが、今回は訪問着にした。たくさんの着物がおいてあり、目移り状態。自分で好きなものを選んでください、というので、会場中くまなく探し、3点ほど候補を見つけた。
いくつか試してみましょうか、ということになり、いちばん気に入ったものから着付けの方に着せていただくことに。デパートの呉服売り場などで試着するのが好きな私は、すっかりそれと同じような気分。
着てみた着物は、なんともお上品な絞りの模様。薄緑から始まって次第に濃くなる小さな絞りの花が裾と肩と袖に散りばめられ、清楚だけれど華やかで、なんとも美しい限り。すっかり気に入ってしまった私は、ほかのものは着てみなくてもよくなった。
着物に合わせて帯を選び、おたいこに結んでいただく。ああもううっとり。これ、ほしい。着用した状態で写真を撮影。
そして、結局撮影会に参加できることになった。担当の方のお話によると、実はこの着物は作家先生の作品で着物の値段がなんと98万円。とても自分で買える値段ではない。まぁ着物って値段のつけ方自体が曖昧だし、なんと言うか、とにかく「そうだ」と言われればきっとそうなのだ。しかしこの着物が私のものになるなんて、本当に?すごすぎる。というか怪しすぎる。普及のためとは言え、そんな高価なものを簡単にくれるのか?
とりあえずサイズをはかり、お仕立てに出す。12月中には仕立てあがった私の着物が届く予定。あぁ嬉しすぎる!
家を買うことになったから、着物なんて絶対買えるはずなかったのに。帯は自分で買わなくてはいけないが、そちらは高価なものは避けたので、それほど痛い出費ではない。
撮影階は2月にあるとか。それまでに太り過ぎないようにしなくては。今度は着付け、習いに行こうかな。
着物モデル、後日談。
いろいろ調べた結果、やはり着物モデルのバイトはやめることにした。というのも、この会社、けっこう評判が悪いようなのだ。
この会社だけでなく、昨今、着物を扱っている業者さんは、意外に怪しい商売をやっているところがあるようで。
モデルのバイトというのは表向きの「客寄せ」口実で、要はそれによって顧客をつかみ、帯やら着物やらを売る商売なのだそう。聞いた話によると、浴衣を無料でもらったが、着物を買わされた、という人がいたり、反物を無料でもらったが高い仕立て料を取られた、という人がいたりするらしい。
こういうのはよくあるパターンらしい。呉服関係は、いわゆる「悪徳商法」まがいのものが多いようだ。価格が高いので、半ば強引に商談を進めないと、きっと売上があがらないのだろう。
どこの着物屋サンでも似たりよったりだと思うが、深く関わってしまい、大きな買い物をしてしまってからでは遅いのでとりあえず今回は遠慮することにした。
「二次審査」という名の「展示会(?)&試着会」は私にとっては楽しかったし、いろんな着物を見たり着たりするのはいい経験になったと思う。こういう商売が世の中にあるのだと知ったこともいい勉強になった。
今私の中のマイブームは着物なのだが、調べてみると、世の中には呉服関係のトラブルは意外に多いようだ。
無料の着付け教室で結局たくさんの買い物をすることになったり、展示会のアルバイトで友達を連れて行って売上を上げなくてはいけなくなったり着付けの講師をして結局着物を買うことになったり・・・形はさまざまだが、先ほども書いたように、購入価格が大きくなるために、トラブルに発展するパターンも多いようだ。
どう考えても現代社会において、着物というのは特殊な服装で、限られた人か限られた場面でしか着ることもない。だから、なんとかして呉服の展示会に人を集め、どうにかして売りたいという気持ちもわからないではないが、純粋に「着物って綺麗だな」と思い興味をもった私としては、あまりに評判のよろしくない呉服関係のお店が多いのは非常に悲しいし、今後着付けを習ったり、購入しようと思ったときに、何を信じたらよいのだろう、と途方にくれてしまう。
折角日本の伝統の誇るべき文化なのだから、もっと大切にできたらよいのに、と思う出来事だった。